【働】第3回「ワタシの店づくり物語」レポート パン教室「hachi labo」代表 奥村裕美さん
第3回「ワタシの店づくり物語」レポート
日 時:2016年10月25日(火) 14:30〜16:00
ゲスト:パン教室「hachi labo」代表 奥村裕美さん
プロフィール: 大学卒業後、地元パン屋を経てアフターヌーンティーベーカリー部門へ就職。
社内コンペで「イチジクのシュガーボール」のレシピが特別賞受賞(期間販売)
その後アンデルセンカルチャースクールでアシスタント経験。
2007年にhachi labo開講。現在、月に10回程度の教室&月1ペースで販売。
主な参加イベント「ハーストーリィーハウスパンマルシェ」「東急ハンズパンフェス広島」。
特技はビール注ぎ。
今回の「ワタシの店づくり物語」は、少人数制のパンとお菓子の教室「hachi labo」の、ハチさんこと奥村裕美さんにお話を伺いました。
焼き上がったパンの美 味しさはもちろんの事、ハチさんの人柄に惹かれて通われている生徒さんも多いと か…。
「店づくり」とは少し角度が違いますが、店を持たずして人を集められてい るハチさんの魅力を探ると共に、
パン教室を始められた経緯についてお話をしていただきました。
●「食」への意識が180度変わったフランス短期留学 そして、流れるま まにパンの世界へ
今ではいろんな種類のパンを作っているハチさんですが、専門的な学校へ通った ことはなく、
学生時代は広島経済大学の経営学科に所属していました。
漠然と自分には事務の仕事は合わないな〜と感じていたある日、フランスへ短期 留学のチャンスに恵まれます。
4年生だったハチさんは就活を投げ出し、親の反対 も押し切ってフランスへ。
そして、フランスの食べ物の美味しさに驚きます。
「ホームステイ先で出されるご飯は何を食べても美味しくて、その辺で売ってい るサンドイッチなんかもびっくりするくらい美味しかったんです!」
フランスでの生活は「食」への意識を180度変える経験となりました。
大学卒業後は地元のパン屋さんへ就職。朝3時からの仕込みに始まり、お昼頃ま でノンストップで働く日もありました。
基本的なパン作りのノウハウを得ることは できましたが、歯車の一つのような働き方に体力的にも精神的も辛くなり
退職を決 めます。しかし、「パン作り」への情熱が無くなることはありませんでした。
●アフタヌーンティーベイカリーでの経験
求人チラシを見つけたハチさんは、アフタヌーンティーベイカリーへアルバイト として入社。
働きながらパン作りの技術をさらに身につけていきます。
正社員に登 用された後は、売り上げ目標や生産量の管理、シフト調整など責任のある仕事を任 されるようになります。
何も知らない人にパンの作り方を一から教える新人教育や、 社内コンペに出品するために自らレシピを考案するという体験は、後の「パン教 室」への道と続く貴重な経験となりました。
●尊敬する人との出逢いと「パン作り」模索の日々
ハチさんには、働き方や仕事に対する姿勢において今でも大きな影響を受けてい る人物がいます。
アフタヌーンティーベーカリー退職後のアルバイト先である居酒 屋「きまじめ」の大将です。
「お刺身の切り方や盛り付けも綺麗で、仕事がすごく 丁寧なんです。
広告を出していないのに口コミだけでいつも満席で、サラリーマン の憩いの場という感じでとてもいいお店です。」
目の前にいるお客さんを大切にし、 真面目に向き合う大将の姿は、いつも謙虚なハチさんの姿に重なります。
喫茶店と居酒屋でのアルバイト掛け持ち生活をしていたハチさんですが、結婚を 機に松山へ引越しをすることになります。
知り合いのいない松山で、なかなか良い 職場を見つけることができず途方に暮れていましたが、
「とりあえず、今できるこ とを」と大好きなパン作りとお菓子作りだけは続けていました。
空いた時間で日本菓子専門学校の通信教育を受講し、2年間で通信教育課程を修 了します。
その後国家資格である「製菓衛生師」を取得しました。松山で過ごした 2年間は、自分自身の「パン作り」を模索する日々でした。
●アンデルセンカルチャースクール アシスタント時代
広島へ戻ってからは、居酒屋「きまじめ」と掛け持ちをしながら「アンデルセン カルチャースクール」のパン教室でアシスタントとして働き始めます。
助手をしな がらも先生の生地の扱い方やレシピのアイデアを側で見て学びました。
「アンデルセンではいろんな食材と出会う機会があって、ある日、今まで食べれ なかったブルーチーズを食べてみろと言われて食べてみるとすごく美味しかった。 こんなに美味しいものがあるんだ!って目からウロコでした。」
様々な食材との出会いがきっかけとなりさらに深まった「食」への関心。次第に パン作りの面白さを仕事として形にしたいと考え始めます。
●パン教室「 hachi labo」の誕生
「自分のパンづくり」のスタイルを模索している中、旦那さんの経営する印刷デ ザイン会社の事務所として新しい物件を探していたところ、広さもあり、パンやお 菓子も作れる水まわりの整った物件が見つかります。
これなら教室が開けるかも! と直感を感じたハチさんの中に「パン教室」の構想が浮かびました。
当時は旦那さんの仕事の手伝いとアルバイトを掛け持ちしていましたが、同時進 行で売り上げ計画や調理器具の調達など着々と準備を進めました。
教室の名前である「hachi labo」の「labo」=研究所には、日々研究を続ける場所 でありたいというハチさんのパンへの情熱が込められています。
2007年「hachi labo」オープン。自作したショップカードを自ら配りながら宣伝 し、生徒数は1度の教室に2名、月に9〜25名程度からのスタートだったそうで す。
●「ハチラボ通信」
「hachi labo」にはホームページがありません。今の様にSNSが普及していな かった当時、Webを使わずにたくさんの人に教室の存在を知ってもらうことは手 間のかかることだったと思います。
しかしハチさんは、ホームページや広告には頼 らずに、旦那さんと共同で作成したフライヤー「ハチラボ通信」をたくさんのお店 へ足を運び、置いてもらえる様にお願いをして回りました。
徐々に口コミで広まってきていたある日、雑誌「Wink」に掲載されることが決 まります。掲載後には一気に生徒さんが増え、2008年の春には掛け持ちのアルバ イトは辞めてパン教室一本でやっていけるようになりました。
口コミから始まって10年目を迎える今年、生徒数は約160名にまで増えまし たが、今でも生徒さん一人一人に「ハチラボ通信」を手作業で郵送するスタイルは 変わりません。
大きなメディアで集客することも方法ですが、一人一人を大切にし ているハチさんならではの集客方法が「hachi labo」の魅力をさらにアップさせて いる秘訣なのかもしれません。
●イベント出店と出張パン
去年より1・2ヶ月に1度のペースでパンとお菓子が販売される「パンの日」が 始まりましたが、「 hachi labo」のパンを買うことができる貴重な機会がイベン ト出店や出張パンです。
外へ飛び出して直接お話をすること、そして「 hachi labo」のパンを食べてもらうことが、パン教室に興味を持ってもらう大きなきっかけとなっています。
新たな生徒さんと出会える大切な場ですが、どんな企画でも参加するわけではあ りません。誰とでもではなく、長い時間をかけて培ってきた友人や信頼関係を築い ている人たちと企画することが大切だとハチさんは言います。
「パンのある暮ら し」をテーマに、ぜひこの人とやりたい、自分がやってみたいという気持ちを大事 にしているからこそ魅力的な企画が実現するのかもしれません。
●レシピのアイディアとして参考にしていること
毎月、教材にするレシピを考える時には季節感を大切にしているそうですが、自 分が食べたいと思うものやお酒を飲んでいる時に出てきた美味しいものなど身近に あるものを参考にすることもあるそうです。
その他にも、1年に一度、東京へパン屋めぐりの旅や、東京にあるパン屋『36 5日』の有名シェフである杉窪章匡さんのパンの概念に囚われていない面白い発想 や、飲食業界紙「料理通信」「Cafe Sweets」に掲載されているレシピからインス ピレーションを得ています。
お菓子好きのハチさんは、お菓子研究家の福田里香さ んのアイデアもよく参考にしていそうです。
●これからの「hachi labo」
常に「+(プラス)面白いこと」を考えているハチさん。
パン教室だけではなく 「hachi labo」スペースを使って、驚きや居心地の良さがある空間を作っていきた いと考えています。
そして、これからも「パン作り」に対する探究心や好奇心、学 ぶ姿勢は常に持ち続けたいとも。
お店ではなく「パン教室」にしたのは、自分だけ でもやっていける「パン作り」の環境を考えてとのことですが、その背景には「良 い材料を使ったパンとお菓子を食べてもらいたい」「パン作りの面白さを伝えた い」というハチさんのやりたいことへの情熱が込められています。
最後に、これからお店をされたいと考えている人へ
「楽しみながらやること。そ して探求する心を持ち続けることが大切」というメッセージをいただきました。
夢 を形にすることは簡単なことではありませんが、実際に楽しみながら、ワクワクす ることを探求し続けてきたハチさんだからこそ、今の「hachi labo」が実現したの ではないでしょうか。
これから、どんな面白いことが「hachi labo」で起きるのか。 楽しみです。